蒼き流星SPTレイズナー 第22話『フォロンとの対決』

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※完全にネタバレに加えてほぼ批判的な内容です。

 

 

 

 

 

グレスコはエイジが『グラドス創生の秘密』を知っていることに危機感を覚え、このままにはしておけないと感じているようです。

うーん、しかしですね、グラドス創生の秘密以前に地球側にグラドスの技術力が流出すること自体が大変危険な事であるはずです。そのためにもゲイルに追撃隊を率いさせていたのですが、ならばなぜ、ゲイルの死後にエイジ達を放置してしまったのでしょうか?

カルラに追撃隊を引き継がせるとか、月に迎撃のための部隊を残留させるとかやり様はいくらでもあると思うのですが、グレスコがやったことといえば、月に無人機であるスカルガンナーを残しただけです。ここまで観てきて分かるようにスカルガンナーは確かに恐ろしい兵器ですが、対SPT戦となると火力不足であり、しかもオツムの方はイマイチにもほどがある性能でしかありません。そんな不完全な無人機に重要な任務を任せっきりにして、結局レイズナーは地球に降り立ち、地球人の調査を許してしまいました。それで今になって焦りだすというのはグレスコも迂闊過ぎるんじゃないでしょうか?

 

レイズナーがV-MAXを発動させて逃走してしまったのでグラドス軍の追撃隊は母船に引き上げてきます。そして赤いグライムカイザル(ブラッディカイザル)からパイロットが下りてきてヘルメットを取るとそこにいたのはエイジの姉であるジュリア・アスカでした。以前、ワープ装置まで使ってグラドス本星から呼びだしたのはブラッディカイザルに乗せてエイジと戦わせるためだったという事ですが………えー、なんのために??

そもそもジュリアって軍人なんでしょうか?明言はされていませんが、ワープ装置で呼びだされた時のグレスコとズールとの会話からは軍人という感じはせず、一般人でしかないような感じだったのですが。(ジュリアは自分が呼び出されたのはエイジを説得するためと思っていたくらいですから。)

仮にジュリアが一般人だとしてなんでブラッディカイザルを操縦できるんでしょうか?しかも、エイジが見たところゲイルと同等の操縦技術を持っているようですが、そんなエース級の腕前を何で一般人が持っているんですかね?(ロボットアニメとはそういうものだから、という意見がありそうな気もしますが、同じく一般人であったデビッドとロアンは多少はSPTの操縦に慣れてきたとはいえ、まだまだグラドス正規兵相手に真っ向から戦えるレベルではありません。同作品内でそういう描写をしておきながら、なぜジュリアだけ…?)

もしジュリアが正規の軍人だというなら、呼びだされた時の反応がおかしいですし、そもそも個別にワープ装置なんて使わずに普通に部隊に配属させればよいだけです。

そしてなぜジュリアをわざわざエイジと戦わせようとしているのかもよく分かりません。ジュリアのグラドスへの忠誠心を試すのが目的の一つのようですが、忠誠心を試して、それでどうするんでしょうか?重要なのはその後だと思うのですが……

しかも、グレスコも(故)ズールもエイジに近い関係であるゲイルを追撃部隊の責任者にしたところ、ゲイルが作戦に私情を挟んでことがややこしくなったのを経験しています。(ズールはそのことでゲイルを叱責しているくらいですから。)そこに来てなんでまたエイジと近い関係どころかその家族をエイジにぶつけようとするのでしょうか??また、ことがややこしくなるだけだと思うのですが……

 

それはそうとブラッディカイザルから降りたジュリアに久々登場のカルラが早速絡んできます。カルラにしたらジュリアの存在は異物でしかないでしょう。そもそも何でブラッディカイザルほどの高性能機を優秀なSPTパイロットである自分を差し置いて、ジュリアが乗っているのかも納得できないでしょうし、死んだ上官の機体をその恋人が乗るという私情100%な上層部の判断自体、腹に据えかねるものがあるでしょう。(カルラは正規の教育を受けてきた士官なのに…)

 

カルラはジュリアに絡んでいく中でゲイルと自分の間には愛があったのだ、と言ってしまいます。それを聴き逃さなかったジュリアはあなたとゲイルの間に愛などあるわけがない、と毅然と言い返します。それに激高したのかカルラはジュリアに拳銃を突き付けて耳元に発砲してみせますが、それ以上何もできず、屈辱のままジュリアを見送ります。

このシーンですが、カルラにとってゲイルと自分の間に愛があったというのは半分は嘘で、半分は本気なのではないかと思います。半分は嘘というのはカルラはゲイルから分かりやすい愛情表現は一切受けていませんし、周囲からすれば単なる上官と部下の関係としか映らなかったでしょう。(というか、実際部下にはカルラの片思いとしか思われていなかったですし。)

しかし、半分は本気というのはカルラは自分がゲイルの前で自決しようとした時にゲイルが自分を殴って止めてくれたという経験をしています。(しかも、頭を打たないいように手を支えてくれた。)

カルラにしたらこれこそが、ゲイルからの自分への愛情表現だったのだ、といいたいのではないでしょうか?勿論、それをもって愛があったとするのは、かなり無理があると思いますし、カルラも我ながら無理があると思っているからこそ、ジュリアに言い返された時に痛い所を突かれたという感じで激高したのではないかと。(そもそも男女の愛がある無い以前にゲイルとカルラは最前線で共に戦ってきたという軍人としての絆があるはずであり、少なくともそれだけはジュリアは経験していないでしょう。)

このシーンに関してはカルラの持つ女の悲しみのような感情が溢れており、観ていてあんまり良い気はしないですね。

またこのシーンが嫌なのが、他の士官であるギウラが、野次馬的に二人のやりとりを眺めていてカルラがジュリアに発砲した際に鼻で笑うような感じの笑みを浮かべて去っていくんですよね。こいつこの後の話でもそうですが、やっていることが小物臭いんですよねぇ。

その後、ジュリアの独白で本来は家族揃ってグラドスを脱出し、地球に危機を伝えに行く予定だったが、ジュリアがゲイルとの恋愛を優先したため、両親は地球行きをあきらめてエイジ一人に全てを託した……という経緯が語られます。

 

 

場面は移ってグラドス軍の会議へ。その会議を背景に前話で殺されたズールが宇宙葬されています。かつてカルラにゲイルの回収を許さなかった際、宇宙で戦う者は宇宙に葬られるのが定めだ、と言っていましたが、この度自分がそうなってしまいました。

会議では最終作戦として地球のオゾン層を破壊し、地球環境に致命的なダメージを与える計画が発表されています。そんなことして地球侵攻後にグラドス人がダメージを受けるのではないかと思ってしまいますが、大都市部のオゾン層に限定して破壊するとのことですので、その点は問題無いと判断されているのでしょう。

作戦開始となり軍人達が持ち場へ散っていきますが、その際、それまで一切の感情を露わにしてこなかったグレスコの女性秘書が、「それはあまりにも非人道的なのではないですか?」とでも言いたげな表情をグレスコに向けます。レイズナーは本当にこういう細かい人物描写に関しては優れていますね。

 

再び場面は移ってエイジとフォロンのシーン。エイジがついにグラドス創生の秘密について視聴者に説明してくれます。

 

「先史時代、滅びかかったグラドス人が栄えた文明を維持継承させるため、地球から人類の生命核を持ち帰り、グラドスにおいて保護育成した。それが現在のグラドス人の先祖だと、つまりグラドス人と地球人は同一人種である。」

 

 

と、これがグラドス創生の秘密なのだそうですが………いや、これってそんなに重要な秘密なんですかね?これは視聴者からすればこれまで話を観ていれば予想はつきますし、意外でも何でもありません。

さらに作中の地球人、グラドス人にとっても秘密にされなくともちょっと勘の良い人なら直感的に気がつく程度の内容だと思うのですが。ワープ航法が必要なほど遠く離れた星でありながら、グラドス人と地球人の身体構成はほぼ同じであり、エイジがそうであるようにグラドスと地球で混血が可能です。この事実だけでグラドスと地球の祖先は同じではないか、と気がつくと思うのですが…(エイジが地球到着後に徹底的に調べられたように、エイジの父もグラドス到着後に徹底的に調べられたはずです。)

確かに地球に対する人種的優越感を誇るグラドス人にとってその地球と自分達の祖先が同じであるというのはアイデンティティに影響をもたらすかもしれません。しかし、フォロンが言うようにそれは先史時代という気が遠くなるほど昔のことです。現在を生きるグラドス人にとってそこまで衝撃を与えますかね…?(地球人だって親の仇の如く嫌いあう民族はいくらでもありますが、その地球人も遡れば同じ祖であるはずです。しかし、だからみんな仲良くしようとは全くなっていません。)

それにエイジもツッコんでいますが、フォロンの言う『伝承』とはそれが事実か否か証明できるものが何もありません。フォロンはそれが伝承だと言い張るだけで数値的、考古学的な証拠を何も提示しようとしません。それすらせず先史時代にあったことをどうやって今の時代のグラドス人、地球人に信じさせようというのでしょうか。(もっといえばそういう証明が無いのになぜグラドスの首脳部はその伝承が事実だと信じているのか?エイジがツッコむということは、これはスタッフからのツッコミだということなのでは…?)

そもそもそれを秘密になどしなくともロベリアやゲイルの船に居た兵士等は、直感的に地球人も自分達と同じ人間だと気がついていた節があります。地球とグラドスの交流が本格的に始まれば、もっと多くのグラドス人、地球人が『真実』に気がつくでしょう。それを考えると果たしてそこまで秘密にするようなことなのか……おそらくここまでに地球人の死者は数万人単位で発生しているはずであり、もはやフォロンの言う事は全て空しく感じます。

 

その後、エイジはあれやこれやでフォロンを自分の管理下に置くことに成功し、フォロンは機能をレイに移して眠りにつきます。これでもってレイズナーはついに完全体となったのでした。

 

 

 

余談……ほぼ、批判一色になってしまいました。しかし、実際この話はツッコミ所が多すぎる…グラドス創生の秘密もそれ秘密にするようなことか?と思ってしまいますし、これ当時のアニメ雑誌等で話題にならなかったんですかね?

ただ、グレスコの秘書が見せた表情は本当に良かった。それまで何の感情も見せてこなかったあの女性が、そういう表情を見せたことで、これから起こる作戦がいかに非人道的であるか物語っていますので、こういうちょっとしたキャラクターの心情は一貫して素晴らしいですね。

それに今話はカルラの悲しいサガのようなものが感じられたのも良かったです、カルラは好きなキャラクターなので、どうもカルラの肩を持ってしまいがちになりますが。

蒼き流星SPTレイズナー 第21話『我が名はフォロン』

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エイジが搭乗すらせずとも、完全に独立したコンピューターの指示の基に破壊の限りを尽くしたレイズナー。もはやメインコンピュータープログラム『レイ』以外に隠されたプログラムが存在していることは明白です。エイジはレイを問い詰めますが、レイはそのようなプログラムなど存在しないと繰り返すばかりです。

 

場面は変わって療養中のクレイトンと寄り添うエリザベス。エリザベスはアーサー達に伝えた通り、しばらくの間はクレイトンと一緒に生活するようです。ここまで親身にしておきながら、エリザベスにとってクレイトンとの『関係』は終わっているそうですが、本当にエリザベス本人はそれで納得しているのでしょうか。なんだかエリザベスという人物は物語の最初からかなり無理をしているように見えてなりません。異星人の侵略が始まったというテレビニュースを見ていて思わず涙も流しています。

そんなエリザベスの心中を知ってか知らずか、クレイトンは「いいのか、基地に戻らないで?」と声を掛けます。眼は見えなくともエリザベスが生徒達のことを心配していることが伝わってくるのでしょう。

と、そんな二人の所に怪しい黒服が…

 

場面は変わってアーサーが迎えに来た母親と歩ています。アーサーの母親というのが、分かりやすく過保護なんだろうなぁ~という感じで、アーサーのことをまるで幼児のような扱いをしています。「帰国したらグランド男爵のお嬢様と真っ先にお会いするのよ。」なんて話も交わされており、アーサーもまたシモーヌと同じく、かなりの名家の生まれのようです。しかし、アーサーはそんな過保護な母親に甘える風でもなく、自立した男の風格の様なものを漂わせています。

と、アーサーの元にも怪しい黒服が…

 

レイを何度詰問しても決まりきった答えしか返ってこないことに苛立ったエイジは強硬手段に出ます。レイズナーが自己防衛のためのプログラムに覆われているなら、強引にそれを出現させるために周囲の米兵から拳銃を借りるとコクピット内でレイに向かって拳銃を発砲します。エイジの『暴走』を制止するレイ、それに構わず発砲を続けるとついにレイの奥から隠された自己防衛プログラム『フォロン』が姿を現しました。

このフォロン、エイジの父であるケン・アスカが、息子であるエイジにグラドスからの平和の使者として機密情報である『グラドス創生の秘密』を託す目的でプログラムされたそうであり、エイジはそれをフォロンから聞きます。フォロンからその機密情報を聴いたエイジはしばし呆然としますが、すぐにギルバート博士を通じて、全世界にメッセージを発信できるよう要請します。

すぐさまエイジのメッセージが全世界に放送されるよう場が整えられ、呼び戻されたアーサーとエリザベスも空軍基地に戻ってきます。(結局、エリザベスがクレイトンと過ごせたのは数時間に過ぎなかったようです…)

そしてエイジは開口一番

『グラドスに降伏すべきです!』

と言ってしまいます、その後もエイジは喋ろうとするのですが、包囲していた米兵たちはエイジの発言を地球人に対する侮辱かつ隷属をすすめるものだと判断し、レイズナーに一斉攻撃を開始してしまいます。地球人に攻撃するわけにもいかないエイジはそのままレイズナーで逃走を開始し、グレスコ提督に面会し、メッセージを伝えるためにその場を去ります。

 

……このシーンなのですが、ちょっとエイジが不用意過ぎるというか、コミュニケーションがヘタ過ぎるのではないでしょうか。周囲の地球人、特に軍人たちは異星人の襲来を前にして気が立っており、ちょっとした刺激が暴発に繋がりかねない状態です。そこにいきなり降伏すべし、なんて言い出せば、地球人からみてエイジは侵略者の手先としか思えないでしょう。聡明な少年であるエイジがそこが理解できないというのも不自然な気がするのですが……

それならばまずは『グラドス創生の秘密』を明らかにし、次いでグラドスと地球の科学力を比較し、最後に降伏を勧めるという流れなら、地球人に与える印象も大分違ったものになると思うのですが、いきなり降伏勧告というのはあまりに相手の気持ちが分かって無さすぎませんかね……これに関してはエイジがどうのというよりも話の進め方が強引過ぎる気がします。このレイズナーというアニメ、本当にキメが細かく丁寧に作られている作品だと思うのですが、メインシナリオの進め方に関してはちょっと粗が目立つように思います。

それにエイジは逃走の為に地球のシャトルを奪うのですが、何故かそのシャトルの乗組員はあっさりエイジの要求に答えており、抵抗する素振りも見せません。ここだけ見るとこのシャトル乗組員はエイジの内通者なのかとすら感じてしまいます。

 

まぁそれはそうとしてエイジは宇宙空間まで逃走するとグレスコの大型母船にコンタクトを取り、グレスコと会話できるよう申し込みます。当然、副官のズールはエイジの申し出を鼻で笑って拒否しようとしますが、何故かグレスコはエイジの申し出を受け入れ、全員その場から去るように命令します。

一人きりになったグレスコはエイジと『グラドス創生の秘密』について話し合うのですが、ドアの向こうに気配が……副官のズールが壁に耳をつけて二人の会話を盗み聞きしていたのでした。それに気づいたグレスコは自らの手でズールを絞殺し、哀れ副官ズールは殺されてしまったのでした。(グレスコもそんな重要な話を盗み聞きできるような声量で話すなよ…)

 

 

余談…レイズナーという世界観の根幹に迫る重要な話でしたが、前述したようにどうも話の進め方が強引に思えてなりません。ゴステロやゲイルについてもかなり強引さと粗が目立ちましたし、どうもこういう傾向があるようですね。(私が気にし過ぎなだけかもしれませんが…)

それと今話で鬼籍に入った副官のズール。一見嫌味な権力者タイプに見えますが、冷静に話を振り返ってみると別におかしなことは言っておらず、部下を叱責するシーンも別に理不尽なことで言っているわけでもありません。カルラが独断でズールに報告したシーンなどむしろ部下に対して気を遣っている感じすらしています。

後の話になりますが、ズールが死ぬ原因になった『グラドス創生の秘密』というのも「そこまで重大なことか…?」と思ってしまいそうな内容であり、そんなことが原因で殺されてしまうのはちょっと気の毒にすら感じてしまいます。

 

 

蒼き流星SPTレイズナー 20話『レイズナーの怒り』

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地球側によるレイズナーの調査が始まっています。地球人にすればグラドスという脅威が迫っている以上、それに対抗するためにもエイジが持ち込んだグラドス兵器の調査は急務であり、やむを得ないことであるとは思います。しかし、それならそれでエイジに協力を依頼して、調査を進めるとか穏便な方法があるとは思うのですが、この時点でエイジは所詮『保菌者』に過ぎないのでしょうか…

しかし、エイジと視聴者はレイズナーには自己防衛のための隠されたプログラムが潜んでいることを知っていますので、地球側の強引な調査は観ていて危なっかしくてたまりません。同時にエイジの身体調査も進められ、エイジの肉体は地球人と全く同じ構造であることがわかります。(これもエイジに許可を取らず無理やりやったんだろうなぁ~)

 

アーサー達は一通りの尋問が済むと解放され、自由の身となります。アーサー達は異常な体験をしてきたとはいえ、巻き込まれただけであり、それほど聴くことも無いという判断なのでしょう。ただし、エイジだけは別ですが……それに抗議するアーサー達ですが、よく考えるとエリザベスの姿がありません。エリザベスはどうしたのか、ギルバート博士に質問すると博士は「彼女は国連宇宙局を退職した。」と答えるのでした。

 

CCCのメンバーに何も告げずに一人去っていくエリザベス。アーサー達は慌てて彼女の元に駆け寄ります。エリザベスは退職後、しばらくはクレイトンと一緒に生活をするそうです。CCCのメンバーは全員エリザベスにこれまでの感謝を伝えます。思えば第一話からエリザベスは数少ない大人の生き残りとしてCCCのメンバーを率い、精神的支柱となり続けてきました。6名の固い絆が伝わってくる良いシーンだと思います。

皆、別れを惜しみつつエリザベスを見送りますが、何故かシモーヌはエリザベスを追いかけていきます。どうしてもエリザベスに聞きたいことがあるようですが、彼女が聞きたいこととは、エリザベスとクレイトンの関係についてでした。

なぜもう関係が終わっているクレイトンに寄り添おうとするのか、今のシモーヌがどうしても知りたいのは、エリザベスの持つ男性に対する複雑な想いについてなのでしょう。エリザベス曰く

 

今の私はとても疲れているわ。そして彼は傷ついている。彼の眼の傷が癒える頃には私の疲れも消えているでしょう。そうしたらきっと二人は別々に生きることになると思うわ。(ここで俯いて)でも、それまでは一緒に居たい…

 

なんというんですかね、前も言いましたが、エリザベスとクレイトンの関係は『恋』は終わっているけど、『愛』は続いているとでも言いますか、恋という自分主体の感情はもう無いけれど、愛という相手が主体の感情は続いていて傷ついたもの同士、お互いの助け合いが必要だということなのでしょうか。そして互いが独り立ちできるようになれば、別れるのみであると。(まるで尾崎紀世彦また逢う日まで、みたいな関係だ…)

シモーヌもまた自らの中にある恋と愛の感情の始末をつけることが出来ず、エリザベスに助言を求めたのでした。

シモーヌが思い悩んでいる相手こそが、エイジなのですが、悩むのも当然というべきかエイジは異星からの異邦人であり、今後エイジが地球にとってどういう意味を持つのか不明なままです。もしかしたらエイジの存在が地球にとって不幸なことになるかもしれません。そんな男に惹かれてしまった自分はどうしたらいいのか、シモーヌが悩んでいるのはそこなのでしょう。

エリザベスはシモーヌに「大事なのは結果ではなく、今の気持ちに自分が正直になること」と言葉をかけ去っていきます。去った先にはアメリカ軍の制服に身を包んだクレイトンが待っていました。これがエリザベスにとっての今の気持ちに正直になることなのでしょう。

 

それにしてもエリザベスは何故、苦楽を共にした生徒達に一言も告げずに去ろうとしたのでしょうか。これは完全に私の妄想でしかありませんが、厳しいことを言うようならエリザベスは引率者としての責任を果たせていません。無論、グラドスの侵略に対してエリザベスは無力であり、どうしようもなかったのは事実です。しかし、引率した生徒の大半が死亡したというのもまた事実です。また、同僚でもある国連職員のビル達はエリザベスの前で次々と死亡し、医師でありながら誰一人として救うことが出来ませんでした。(繰り返して言いますが、そういった悲劇に対してエリザベス個人に出来ることは何もありません。)

生徒も同僚も大半が死に絶えたことはエリザベスの心中に只事ではない無力感を与えたことでしょう。それやこれやで生徒達に対して申し訳が無く、何も言うことが出来ず、黙って立ち去ろうとしたのではないでしょうか。以上、妄想終わり。

 

エリザベスに続いてアーサーも自宅に帰るために去っていきます。生き残った彼らもこれから日常へと戻っていくのでしょうか。アーサーもまた別れを名残惜しみますが、去り際にちゃっかりシモーヌに自分の連絡先を渡すことも忘れていません。こと恋愛模様に関してはシモーヌが完全に主役ですね~(アーサーやデビットから見てエリザベスは年上過ぎるし、アンナは年下過ぎるというのもあるのでシモーヌが唯一の恋愛対象というのもあるのでしょう。そしてこういう話になると完全に蚊帳の外のロアン。)

さらにアーサーは未だ監禁されているであろうエイジに向かって

 

「ちょっと両親に会って安心させてくる、戻ってくるからなー!」

 

と声をかけてから車に乗って去っていきます。当然、エイジに聴こえるわけもありません、しかし黙って去るのも忍びないというアーサーの義理堅さと優しさが伝わってきます。レイズナーというアニメは第一話から人が死にまくり、無数の犠牲の上で少数の少年少女たちだけが生き残るという冷静に考えると非常に暗く、陰鬱な話なのですが、アーサーのお人好しで毒にも薬にもならない人間性は、良い感じにその陰鬱さを軽減させてくれていると思います。

続いてシモーヌにも迎えが来ますが、それが執事が高級車で直々に迎えに来ており、予想はしていましたが、シモーヌの家は相当な名家かつ資産家のようです。しかし、シモーヌは迎えを拒否し、もう少しここに留まることを宣言します。彼女にはやることがあるからなのでしょう、『彼』に自分の想いを伝えるという大事が…

 

場面は再び地球人のレイズナー調査へ。レイズナーの調査が着々と進みますが、なぜかレイズナーのコンピューターの一部領域は画像に映りません。おそらく外部からの調査に対する秘匿機能が働いていると思われますので、地球人たちはレイズナーを物理的に解体して調査しようとします。しかし、これまで観てきてわかるようにレイズナーには強力な自己防衛システムが組み込まれていますので、こんな無茶をしたらマズいはずですが…

と、エイジと視聴者の心配はバッチリ的中しましてレイズナー無人のまま動き出し、逃走しようとします。それをよせばいいのに米軍は戦車や戦闘ヘリ、しまいにはガンシップAC-130まで繰り出してレイズナーを破壊しようとします。(それにしてもAC-130の内部映像が描かれていますが、85年当時にこういった航空機の内部資料が公開されていたんですかね?)

しかし、当然レイズナーにかなうはずもなく米軍は一方的に撃破されていきます。このシーンだけでおそらく地球人側に数十名は死者が出ていると思われます。レイズナーとは決して『正義の味方』などではなく、自己防衛を全てに優先する冷酷なプログラムでしかないことがよく分かるシーンです。

果たしてレイズナーの存在は地球にとって吉と出るか凶と出るか、そんな不安さをまき散らした一話でした。

蒼き流星SPTレイズナー 第19話『とどかぬ想い』

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※相変わらずネタバレしています。

 

月の引力を離脱し、地球へ突入するためのコース設定をアーサーが中心となって行い、無事に地球への軌道に乗ったようです。デビッドは絶賛し、シモーヌもおもわずアーサーの頬にキスしてしまうくらいのお手柄のようですが、このようにアーサーは戦闘に関わらないだけで情報収集やシャトルの操縦などは率先して行っていることが良く伝わります。

いよいよ地球に接近するシャトルですが、地球の防衛用人工衛星から攻撃を受けてしまいます。やむなく反撃して破壊しますが、これ何か意味深なシーンの様に思えますが、この後、特に衛星を破壊してしまったことが影響するわけでもなさそうなんですよね。

いよいよ地球に接近という段階になってエリザベスは自分が所属する組織である国連宇宙基地本部の本部長ジョン・ギルバート博士とコンタクトを取ります。このギルバート博士、いかにも人格者といった感じで久々に信頼できる存在であるというのが分かります。(別にダニー少佐やビル達が信頼できないということではなく、ギルバート博士はグラドスの襲撃を経験していないため、エイジ達に偏見無しで接することが出来るという意味です。)

エイジは手短に自分が地球を目指す理由について説明しますが、その中で自分の父はケン・アスカという名前だと告げるとギルバート博士は衝撃を受けます。ギルバート博士はエイジの父の友人であり、エイジの父を宇宙に送った計画のスタッフだったのです。

自らのルーツを明確に知る人に初めて出会えたエイジ、喜びが隠せません。CCCのメンバーも共に喜んでいます。しかし、視聴者はここまでこのアニメを観てきてもう知っています。新しい希望の出現は新しい絶望の兆候であることを…

ついにエイジ達のシャトルは地球へと辿り着き、眼下には彼らの生まれ故郷の国々が広がっています。歓喜に包まれるシャトル内。しかし、やっぱりというべきかグラドスの追撃隊が襲撃をかけてきました。故郷にやっと帰って来ながら、死ぬわけにはいかないとエイジ達は迎撃に出ます。

 

さてここにきて宇宙空間ではなく、1Gの大気圏内での戦闘ということもあるのか、グラドスは新しい兵器であるMF『ソロコム』を投入してきました。

 

 

機能を限定したSPTのことをMF(マルチフォーム)と呼ぶそうです。 
画像は蒼き流星SPTレイズナー公式ウェブサイトより引用。



戦闘機に脚が生えたようなデザインをしていますが、実際変形して戦闘機そのものになることができます。大気圏内での戦闘に特化させることが目的なのですが、どうもちぐはぐなデザインに見えてあんまりカッコよいとは言えませんね。それにしても変形して戦闘機になるとはマクロスやらガンダムの波が高橋監督作品にも押し寄せてきたということなんでしょうかね。

で、大気圏内での戦闘に特化しているであろうソロコムが変形している一方で、レイズナー・バルディ・ベイブルの三機は普通に空を飛んじゃっているんですよね。これどうやって飛んでいるんですかね…?おそらくバックパックにそういう機能があるとは思うのですが、レイズナー達が水平姿勢でスーッと飛んでいる姿はロボットというより、まるでウルトラマンのようで違和感がありますね…

 

と、追撃部隊の中になんとグライムカイザル(の色違い)がいることをエイジは発見します。15話で死んだと思われたゲイルが実は生きていたのでしょうか?エイジが見るところそのグライムカイザルのパイロットはゲイルと同等の操縦技術があるようです。(まぁこのパイロットは○○○○なんですが、このシーンで普通に地球人殺しまくってんだよなぁ…)

 

米軍の戦闘機部隊がシャトルの護衛に駆けつけてくれましたが、グラドス軍の追撃を受けているという状況であり、エリザベスが求める国連基地への着陸は困難ということもあり、近くの米軍基地へ向かうことになりました。不満に思うエリザベスですが、自分達は国連所属であり、相応の処遇を求めることで米軍基地に向かうことを受け入れます。

ちなみにこのシーンで追撃するソロコムが地球側の攻撃で撃墜されています。これまでもありましたが、地球側の兵器でもグラドス軍兵器に多少は戦えることがわかるシーンですね。(多少ですが…)

 

なんとか無事に米軍基地に着陸し、再び地球の土が踏めたことを喜びあう一同でしたが、そこに向けられたのは祝福の言葉ではなく、銃口でした。まぁお客さん扱いされるわけはないですし、彼らは一種の『保菌者』のようなものですので予想は出来ましたが…

エリザベスは取り調べ中に無理やり鎮静剤を打たれ、デビッド達はマジックミラー張りの部屋に押し込められ、そしてエイジは全裸にされた上に四方がゴムの様な材質で囲まれた独房に放り込まれています。(自殺を防ぐ目的もあるのでしょう。)

そして地球人たちはレイズナーの調査を開始します。レイズナーには隠された秘密があることを知っているエイジはそれを危惧するのですが…

蒼き流星SPTレイズナー 第18話『そして地球へ』

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スカルガンナーの攻撃を何とか撃退したエイジ達はひとまずシャトルに引き返し、クレイトンと子供達も収容します。

子供達は不安げな表情を見せますが、アンナやアーサーが積極的に子供たちに話しかけて徐々に打ち解けてきます。それにしてもこの子供たちは学校の帰りにグラドスの襲撃を受けて、クレイトンに保護されたということなのですが、当然一緒に生活していたであろう家族、両親はどうしたのでしょうか?月には地球人が3万人暮らしていたという事ですから、その生き残りがクレイトンと子供たち9名だけとは考えにくく、他の区画に避難している住民もいるとは思いますが、やはり大部分は死亡してしまったのでしょう。

そう考えるとこの子供たちの家族も死亡している可能性はありますが、それに関して子供たちは何も言いません。この年代の子供たちが両親のことを何も言わないのはちょっと不自然な気もしますが、そこは話が複雑に成り過ぎるのを防ぐという作劇上の理由なのかもしれませんね。

 

場面は変わってグラドスの大型母艦。母艦からアンテナの様な装置が伸びるとその先端に突如として小型のコンテナが出現しました。要するにこれワープ装置なんですね。SF作品でワープというと戦艦や戦闘機などが使用するのは多いですが、こういう小型の荷物を転送するのにも使えるというのは、ちょっと新鮮ですね。

で、何が送られてきたのかというとエイジの姉であるジュリア・アスカその人でした。(EDに出ている人ですね。)それにしてもこのジュリア、顔のパーツのバランスがおかしいような…鼻と口が小さすぎる&下過ぎるで小型犬みたいにみえますね。さてエイジの姉に何をさせるのでしょうか。

 

再び場面はシャトル内へ。エリザベスが臥床するクレイトンに寄り添っています。アンナは二人の関係に興味を持ったのか、エリザベスに質問します。やはりエリザベスとクレイトンは恋人同士であったようですが、それは過去の話であり、今はもう終わった事であるとも。しかし、そうであるなら何故、エリザベスはこうしてクレイトンに今でも親身にしているのでしょうか。勿論それは『患者』であるクレイトンに『医師』であるエリザベスが職務上の責任を果たそうとしているというのもあるでしょう。しかし、二人の関係の濃淡はそれだけでは説明がつきそうにありません。

すぐ隣ではアーサーが子供たちと一緒になって楽しく遊んでいます。未来の象徴である子供たちが笑顔で遊ぶ隣で恋敗れた大人たちが押し黙って過ごしているという構図は、少し残酷なようにも感じます。

それにしてもエリザベスって他の子供たちがいると「クレイトン」と呼んでいるのに二人きりになると『ジョン』とファーストネームで呼んでいるんですよね。ここまで視聴していると未練タラタラなのはクレイトンの方と感じてしまいますが、エリザベスにだってクレイトンに対する未練は絶対あると思うんですよね。お互いに未練があるなら縒りを戻してもう一度やり直せばいいんじゃないか、と思うのですが、以前も述べたようにもう二人は生き方や思想が違ってしまっていますからね。そんな単純な話じゃないのでしょう。

さらに二人の会話から過去のある一週間がお互いにとって決定的なすれ違いになったことが語られます。エリザベスに何か重大なトラブルが発生し、その時クレイトンが傍にいてくれなかったことが破局の決定打になってしまったようです。

エリザベスに起こったトラブルが何かは現時点では分かりませんが、クレイトンが何故エリザベスの元に行けなかったかは何となく予想は付きます。クレイトンの職業が軍人であること、一週間という期間ということから、おそらくその時クレイトンは軍事演習が入っていたので電話すら出来なかったのでしょう。そういう事情なら連絡できなかったのもやむを得ないと思いますが、それでもエリザベスはその時、クレイトンに会いに来て欲しかった。なんなんだこの情熱的な男女関係は……わかりやすくメラメラ燃えているんじゃなくて、外からは見えないが灰の下でジワジワ燃え続けている炎というか…

 

それはそうとクレイトンの眼の傷は感染を起こしており、このままでは失明の危険があるようです。それならば地球帰還後に病院ですぐ治療してもらうというのが最も安全かつ妥当な判断でしょう。しかし、調べてみるとアポロ11号は地球から月に到着するまで約102時間かかったそうです。トライポッドシャトルはグラドスの技術によって作られているのでもう少し早く到着するとは思いますが、それでも時間はかかるでしょう。しかもそれはグラドスの妨害が一切無ければという前提のことです。

地球に帰るまでにもしクレイトンの眼の傷が致命的となり、失明することになれば…

そう考えたエリザベスは居ても経ってもいられなくなり、出発まであと数十分というのに誰にも告げずに月面基地の医務室に抗生物質を取りに行きます。これまで常に冷静で理知的な言動を取り続けていたエリザベスにしてはあまりに無茶かつ危険な行動です。

これは医師としての責任感ゆえの行動なのでしょうか、それとも…

 

エイジ達もエリザベスがいないことに気がつき大騒ぎになります。クレイトンもまさかエリザベスがそこまでやるとは…と驚いているようです。

直ちにデビッドがベイブルで救出に向かいますが、エリザベスの元にスカルガンナーの襲撃が。スカルガンナーに見つからないよう薬を見つけて脱出しようとするエリザベスですが、このシーンは演出が完全にホラーになっています。

なんとかエリザベスはベイブルに収容し、再びエイジ達はスカルガンナーと激しい戦いになります。それにしても前回もちょっと思ったことですが、このスカルガンナーという存在は非常に不気味かつ恐ろしく、物語における悪役としての役割は完璧に果たしているとは思いますが、見方を変えて兵器として冷静に考えた場合、ちょっと問題が多いようにも思えます。

まず、武装として対生物用のビーム兵器を搭載していることから、敵の主力をあらかた壊滅させた後の残敵掃蕩の役割を期待されていることは間違いないでしょう。しかし、それにしては全高約10mというのはちょっと大きすぎるでしょう。もしスカルガンナーに襲われても強固な地下施設や区画に逃げ込めばそれだけで手が出せなくなるのでは?

本編ではどの区画も全高10m以上はありそうな、かなりだだっ広い作りになっていますが、病院などの生活区域までそこまでデカく作る必要ありますかね?これに関してはスカルガンナーを侵入させる理由付けにしかなっていないようであり、やや不自然さを感じてしまいます。

尤もスカルガンナーの任務は対人だけでなく、対SPT、対戦闘機などもこなせるようです。しかし、本編を見て分かるようにどうも対SPT戦においては火力不足なようですし、なにより鉄骨などの無機物と人間の見分けがついていないというAIのお粗末さもあって、兵器として観た場合どうにも中途半端な存在の様に思えます。

とはいえその中途半端な性能のおかげでデビッドやロアンでも何とか戦えて、緊迫感も演出できるという作劇上の意味は非常に大きいです。(二人とも有人SPTにはかなわないので。)

それともう一つ見逃せないのが、アーサーがトライポッドシャトルの機銃を操作してスカルガンナーに命中させ、きちんと戦闘でも役に立っています。レイズナーってロボットアニメですから、ロボットであるSPTの操縦から脱落したということでアーサーは点数が辛く付けられがちですが、こうやってちゃんと戦闘に参加していることは見逃せません。

 

最後にエイジがレイズナーに隠された機能を再び引き出すために意図的に攻撃を受け続け、レイズナーを窮地に追いやります。そしてエイジの予想通り、レイズナーは再びV-MAXを発動させスカルガンナーを蹴散らしたのでした………が、エリザベスとクレイトンの関係が良過ぎて、今話はロボットアクションはほとんど印象に残りませんでしたね。

蒼き流星SPTレイズナー 第17話『群がる殺人機(マシーン)』

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今話の主役である無人機スカルガンナー 
画像は蒼き流星SPTレイズナー公式ウェブサイトより。



 

今話は無人戦闘メカ(TS=テラーストライカーと呼ばれる)『スカルガンナー』とエイジ達の激戦が描かれているのですが、なんといっても今話の一番の注目ポイントは常軌を逸したと言っても過言ではないレベルの作画にあるでしょう。

これに関してはこんなわけのわからんブログで伝えきれるわけもなく、実際に本編を視聴していただくのが一番なのですが、毎週放送というスケジュールの作品において何故ここまでレベルの高い仕事が可能なのか、ただただプロフェッショナルの凄まじさに驚くばかりです。

そして何より重要なのが、その凄まじいまでの作画が、きちんと世界観と繋がっているということです。こんなことを言うのもなんですが、私はアニメにおいて作画が優れているというのはそこまで重要では無いと思っています。

視聴者は別にアニメーターの仕事を見学するためにアニメを観ているわけではありません。アニメーションというシナリオがあって、キャラクターがあって、声優の演技があって、音楽があって成立している作品を観ているのであって、作画はそのうちの要素の一つに過ぎません。極端なことをいえば作画がどれだけ優れていようが、その優れた作画を持ってしてその作品の世界観を説明出来ていなければ意味が無いと思います。

その点で今話のレイズナーは完璧といえますね、狙ってこの作画をこの話に持ってきたかどうかは不明ですが、無人機スカルガンナーの不気味さ、そしてその後ろにあるグラドスの侵略計画の恐ろしさが今話の作画において存分に表現されていると思います

 

これがスカルガンナーのコンセプトだそうです。ちなみにゴキブリをモチーフにしているのだとか、確かにゴキブリ並みのしつこさと気持ち悪さで襲ってくるぞ!
高橋良輔著 アニメ監督で…いいのかな?」より画像引用

 

とにかく今話の作画はアニメに興味のある人なら是非とも一度は観て欲しいですね。個人的な注目ポイントとしては『シャトルから飛び出して奇襲をかけるバルディの躍動感』『バルディのショルダーレーザー砲の水飛沫のような独特のエフェクト』『スカルガンナーを迎え撃つために小ジャンプで手前に移動するベイブル』『機関砲の掃射後に地面に落ちる薬莢』『無人機であるので有人機では困難な挙動で迫るスカルガンナー』……まだまだありますが、こんなところでしょうか。何度も言いますが、アニメに少しでも興味のある人は是非視聴して欲しいです。

 

そしてもう一つ、今話で目が離せないのはエリザベスとクレイトンの関係でしょう。

この二人の恋愛関係は終了しているとはいえ、互いのことが嫌いなわけではない、いやむしろ今でも二人の間に愛は存在していることは察せられます。しかし、二人にとって決定的であったのは『生き方・価値観』が異なってしまったことなのでしょう。生き残るためには武器を獲れと子供たちにも戦わせようとする軍人クレイトン、そういう戦闘的な考えが侵略者に付け入る隙を与えるのだと抗議する国連職員エリザベス、どちらが間違っているという事でもなく、まさしく二人は過去はともかく現在において生き方が異なってしまっていることが伝わってきます。

クレイトンは軍人として、エリザベスは国連職員としての道を歩みだしており、今更生き方、価値観を変えることなど出来ず、破局は止むを得ないことなのでしょう。二人のすれ違うやり取りが、未来の象徴ともいうべき子供達の前で行われていることは印象的です。

しかし、言い換えてしまえば二人は生き方と価値観が違うだけで、互いを思いやる心は全く失われていないことも伝わってきます。先の話になりますが、でなければ危険を冒して薬を取りに行ったり、互いの傷(体も心も)が癒えるまで共に暮らすことを決意するわけがありません。

ボトムズのキリコとフィアナもそうでしたが、直接的な言葉(好きだ、愛している、とか)や行動(抱きしめ合う、キスをするなど)を取らずとも男女の恋愛模様を表現することが出来る、これは高橋良輔監督作品に共通する素晴らしい点だと思います。(クレイトンがエリザベスにキスをしようとするが、エリザベスはそれとなく拒否してしまうシーンもあります。まぁ子供たちが見ているってのもあるんでしょうが、笑)

まぁそういう小難しい話は抜きにしても未練がかなりあるクレイトンともう済んだことと割り切っているエリザベスの二人を観ているだけで楽しいです、そしてその二人を眺めている子供たちの「何やっているんだろう、この大人たちは…」とでも言いたげな表情も、笑

 

やはり脇役というのは本当に大事だなぁ、と思う一話でありました。

蒼き流星SPTレイズナー 第16話『月よ!こたえて』


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ゲイルの追撃隊を退け、月へと急ぐエイジ一行ですが、何故か月面の米ソどちらの基地も通信に返答がありません。トライポッドシャトルが地球の船でないということは、事前に通告が出来なければ攻撃を受けてしまうことは確実なのですが。といって、ここまで話を見てきた以上、米ソ両基地から返信が無い理由は想像がつきますが…

 

場面は代わってゲイル亡き後のグラドス艦のブリッジ。カルラがズール副官にゲイルが戦死したことを報告し、合わせて仇を討つためにも月へと向かうことの許可を求めますが、ズールは既に作戦は進行中であり、すぐに帰還せよとカルラの申し出を却下します。ならばせめてゲイルの遺骸を回収する時間を与えて欲しいと訴えますが、それすら却下されてしまいます。

愛する人の亡骸を葬ることすら許されないカルラ、思わず涙が溢れがっくりと肩を落とします。ゲイルが亡くなってからもこの不憫さ、ここまでくるとスタッフの方々も明らかに狙って不憫な状況にしているんだろうなぁと思います。とはいえ彼女の不憫街道はまだまだ続くのですが……それにしてもカルラはこういう非情な命令に不満を持ちつつもきちんと撤退の命令に従っています。カルラと同級者であったロベリアも非戦闘員の殺害という行為に苦しみながらも命令に従っていました。

カルラもロベリアも命令への服従という軍隊の(というか組織の)基本に対し内心抵抗しながらも自我を押し殺して従っていました。それだというのに彼らの上司ときたら……

 

再び場面はエイジ達シャトルの内部へ。結局月着陸の直前になっても米ソ基地どちらからも反応がありません。やむを得ずエリザベスは通告無しで月面着陸を決意します。

それにしてもここでの会話シーンでドクター・エリザベスがこの一行の精神的支柱であることがよく伝わってきます。戦いや逃走だけならエイジを中心に進めて行けばよいでしょうが、ここからは地球へ帰還するための細かな調整が必要になってきます。そのためには国連職員であるエリザベスの存在は何よりも大きいでしょう。

とはいえ、通告無しで月面に着陸することへの不安が解消されたわけではありません、男性陣は大丈夫かなぁと不安がりますが、そこにシモーヌが、月は火星と違って三万人もの地球人が住んでいるのだから前向きに考えようと発言します。皆それもそうだと思い、月についたら美味しいものを食べよう、なら皆で良く行ったステーキハウスに行こう…等々、イヤな予感がプンプンする会話を振りまきます、笑

結局、心配していた米ソ基地からの攻撃も受けず、無事に月面に着陸出来たのですが、それもそのはず。予想通りというかなんというか、月面の全ての施設は壊滅していました。ついにグラドスの侵攻は月まで及んでいたのでした。

 

衝撃を受ける一同でしたが、情報収集のため、そして生存者の確認のためエイジとデビッドがSPTで探索に出かけます。地下タウンを探索するレイズナーとベイブル、とそこに謎の人影が。レイズナーとベイブルは自然の景色を投影した公園のような場所に出ます。噴水があったり、クレープの屋台の残骸が転がっていたりと火星と比べて地球の環境に近く設計されていることが分かります。それだけに破壊されていることへの無常観が漂うのですが…

それにしても今話はレイズナーとベイブルがアップになった際の作画が素晴らしいですね。機械の硬質感と滑らかさがよく表現されています。

 

通路の突当たりまで出てきたレイズナーとベイブル。と、正面の壁に地球の戦闘機が機首から突き刺さってこちらに向いているのを見かけます。グラドス軍の攻撃により破壊されたのだろうと思っていると、何故か機首の機関砲が動き出し……その機関砲、そして歩兵(?)の自動小銃やロケットランチャーの一斉攻撃が始まりました。

しかし、その歩兵(?)達は一人を除いて何故か皆、背格好が小さな者ばかりであり、唯一背の大きな人間も何故か眼帯をしており、眼が見えないようです。

そうこうするうちに背格好が小さな者たちは武器を捨てて逃げ出してしまいました。眼帯をしている男は踏みとどまって戦うよう命じますが、やはり眼が見えないようで明後日の方向に銃を乱射しています。

デビッドは生存者を発見したこと、そのうちの1人は負傷していることをエリザベスに報告しますが、このシーンのデビッドが実に簡潔明瞭にエリザベスに事実を伝えており、地味ながらデビッドの成長がよく分かる良いシーンだと思います。エリザベスも怪我人と聞いちゃあ黙ってられねぇ、とばかりにデビッド達の基に向かいます。(忘れがちですが、エリザベスの本業は医者なのだ。)

デビッドはベイブルから降りて謎の集団と対面しますが、そこにいたのは眼を負傷したアメリカ軍人と8人の子供たちでした。(デビッド達よりさらに年下、小学生低学年程度に見える)子供たちは異星人だと名乗るエイジを見て、映画と全然違うし、そんなの嘘だと実に子供らしい会話を繰り広げ、これまでとは違う空気を造りだしてくれます。

と、そこにエリザベスが駆けつけてきますが、なぜかアメリカ軍人を見ると衝撃を受けて近寄ってきます。

このアメリカ軍人の名前はクレイトン。エリザベスとクレイトンの間には過去色々とあったことが二人の会話から察せられます。(要するに元カレと元カノなんですね。)

とはいえ今でも二人の関係が冷え切っているわけではないようですが(なんたってヘルメット+眼帯をしていても一発でクレイトンだと見抜くくらいですから)、出会うなり二人はお互いのちょっとした物の言い方で衝突しています。ここがとても良くて、二人の関係は不仲というよりすれ違っている、といった感じが伝わってきます。

と、そんな彼らの基にこれまで見たことがない不気味なSPTが接近してきます。この時点で今まで登場したブレイバーやディマージュ、ドトール等とは明らかに異質な雰囲気を感じる機体です。

クレイトンは子供たちに再び武器を獲って配置につくよう命じますが、これにエリザベスが抗議してまた口論になります。エリザベスにしたら子供に武器を持たせるなんてとんでもないことなのでしょうが、それを言ったらエリザベスもエイジ達に武器を持たせて守ってもらっているのですが…(最もエイジ達は10代の後半であり、ギリギリ大人と言えないこともないので、訳が違うのでしょうが。)

 

 

余談…ゲイル編(?)が終わって、新たな月面編がスタートしましたが、また一気に話が動き出したように感じます。特にクレイトンと8人の子供たちの存在が物語に新鮮な風を送り込んでくれています。これまでもビルたち国連職員やダニー少佐など地球の大人たちがメンバーに絡んでいましたが、クレイトンはエリザベスと因縁浅からぬ関係という新たな要素があり、そこからも目が離せません。やはり良い脇役というのは物語に絶対に必要だと思います。