蒼き流星SPTレイズナー 第一部の振り返り『地球編』

続いて地球側のキャラクター紹介です。

ところでコズミックカルチャークラブ(CCC)ですが、そこに在籍している少年少女たちは全員、知力・体力・人間性共に優れており、こういった作品でありがちな他人の足を引っ張ったり、身勝手な言動を取る人間は一人もいません。CCCのメンバーは国連所属という言わば、地球を代表する面々であり、全員がエリートです。

劇中で彼らは異星の戦闘メカや宇宙船を操縦し、地球に帰還するのですが、普通に考えたら流石に無茶な描写なのでは…と思いそうになりますが、第一話から一貫してCCCのメンバーは地球を代表するエリートとして描かれていますので、ギリギリ出来ないことも無いかな、と視聴者としても納得できるかと思います。(ちなみに彼らはエリートであり、しかもシモーヌやアーサーの実家は相当な名家であると思われますが、だからといって彼らからはエリートキャラ特有の嫌味な感じは一切せず、そういう意味でも好感度が高いです。)

 

 

アルバトロ・ナル・エイジ・アスカ

我らが主人公。なのだが、いまいち目立たない…エイジという少年は聡明で判断力にも優れ、慈愛の精神に富み、SPTの腕前も一流とこれといって欠点がない人間性の持ち主であるが、欠点が無いゆえに却って印象に残らないように感じます。またエイジの不殺主義は、エイジの境遇を考えると納得出来るものではありますが、作中においては中途半端さを感じさせてしまうのも確かです。

エイジが、地球に危機を知らせに来たということが物語の始まりとなっていますが、それ以降のエイジは物語に対して受け身になっていることも影響しているかもしれません。(基本的にレイズナーという作品はエイジ一行が、グラドス軍の襲撃からいかに生き延びるか、という状況の連続で話が進んでいくので。)

とはいえ主人公らしい主人公であることは確かであり、エイジの持つ自己犠牲の精神が作品全体に程よい緊張感を与えています。

 

アーサー・カミングス・Jr.

CCCの最年長。

『毒にも薬にもならない』という表現がありますが、まさしくアーサーの為にあるような言葉だと思います。とにかくお人好しな善人といったキャラクターであり、貴重なコメディリリーフとして、ややもすれば暗く陰鬱になりがちな本作の空気を適度に和らげてくれています。

レイズナーについて触れているウェブサイトや書籍では、アーサーは大抵「頼りない」とか「弱気」とか評されているように感じますが、私はそれに関しては否と言いたいです。

第一話が始まってしばらくの間はCCCのメンバーは生き残りの大人達に頼り切った状況が続きますが、その中で最も自主性を発揮していたのはアーサーであり、ビルたち国連職員に現在の状況を聞きに行き、そこで得た情報を他のメンバーに教えたりもしていました。(その際アーサーはビル達に対して自分達も情報を知る権利がある、と訴えていましたが、本当に弱気な少年なら大人に対してこんなこと言えないでしょう。)

「頼りない」に関してもアーサーはSPTの操縦からは早々に脱落してしまいましたが、その後もシャトルの操縦やシャトルの機銃での援護射撃等は率先して行っていました。レイズナーはロボットアニメですから、ロボット(SPT)の操縦を諦めたアーサーをどうしても軽く評価してしまいがちですが、実際本編を視聴してみるとアーサーの貢献度はデビッドやロアンに何ら劣るものでは無いと思います。

さらにアーサーについて見逃せないのが、一見すると弱気に思える発言も実は事の本質を見抜いているからこそ、というのがあります。例を上げるとデビッドとロアンがSPTの操縦にのめり込んで、やや自信過剰になった際にアーサーは「まだ未熟なのに無茶しちゃマズい。」と発言しています。これだけ見ると二人に水を差したようにも思えますが、実際その話のラストでデビッドとロアンはグラドス軍SPTに手も足も出ず、危うく殺されかけており、アーサーが危惧した通りになっています。

また、アメリカ軍のダニー少佐がグラドス軍に襲撃され、窮地に陥った際、エイジ達は救援に向かいますが、その際もアーサーは地球人は自分達のSPTのことを知らないのだから、エイジ達も撃たれるのでは、と危惧しましたが、実際その通りになっていました。

そういう意味ではアーサーというのはCCCのブレーキ役なのだと思います。現実でもそうですが、創作においては積極的な言動をするキャラクターについ注目が集まりますが、アーサーのように一見弱気に見えるが、実は誰よりも本質を理解している存在も重要です。現実でも創作でもそういう人を見逃さないようにしたいものです。

ちなみにアーサーはCCCのメンバーで唯一、家族(母親)が登場しており、その母親というのが分かりやすく過保護であり、地球帰還後のアーサーを幼児の様に扱うのですが、アーサーはそんな母親に甘えるわけでもなく、親離れした男の風格の様なものを漂わせています。このシーンのアーサーは非常にカッコいいです。

 

デビッド・ラザフォード

CCCの特攻隊長

第一話のグラドスの攻撃により親友のジュノを失う。序盤におけるデビッドの感情はそのことで占められており、同時にグラドス人であるエイジに強い敵意を持ち、何度となくエイジに暴行を加えた。そんなデビッドが徐々にエイジを許し、信頼し、そして友情を深める過程は本作の魅力の一つ。

アーサーがCCCのブレーキなら、デビッドはまさしくアクセル的存在であり、戦闘においてもとにかく積極的であり、エイジがゲイルに投降を決めた際は自分一人でも戦うと宣言していました。

戦闘においてはSPTベイブルに乗って戦いますが、ロアン程は操縦センスに恵まれなかったのか、結局有人SPTは一機も撃破できずに終わっています。

 

ロアン・デミトリッヒ

CCCの眼鏡担当。

眼鏡をかけた風貌と気真面目な喋り方から、堅物な秀才というイメージを持ちそうになるが、案外くだけたところもありアーサーとは凸凹コンビといったやり取りを毎回見せてくれる。

SPTの操縦センスも高いようで初めてSPTで戦った際も相手に一発攻撃を当ててみせ、第一部最終決戦では、単独で敵SPTを撃破してみせた。

しかし、ロアン本人が、やや控えめな性格をしていることもあってか、デビッドやアーサーと比べるとあまり目立たない存在であるように思います。彼がキャラクターとして本領を発揮するのは、第二部になってからでしょうか。

またエイジの仲間達の中で唯一恋愛要素に絡んでいなかったりもする。(シモーヌからも年下ということで恋愛対象から外されていた。)

 

シモーヌ・ルフラン

やや皮肉屋な面があるものの基本的に明るく活発な少女であり、しかも実家は相当な名家かつ資産家であると思われる。(なんたって執事が直々に迎えに来るくらいなのだから。)

恋愛要素においてもデビッド、アーサーの二人から言い寄られるが、シモーヌ自身は異星からの異邦人であるエイジに惹かれているというお姫様的ポジションでもあります。

彼女の魅力といえば、非常に印象的な台詞の数々が上げられるでしょう。CCCのメンバーは全員そうですが、十代の少年少女でありながら高い教養と知性を持ち、自己を確立させていますが、シモーヌの場合、特にそれが発言から感じられます。

横暴な権威に屈せず、自分の事は自分で決めるという姿勢はまさに大人のそれであり、彼女のそういった精神もまたレイズナーという作品の格調高さに貢献していると思います。(どーでもいいが、ムダにパンチラ描写があり、そういう意味でも重要人物だ、笑。)

 

エリザベス・クレブリー

国連に所属する医師であり、CCCの引率者でもある。

第六話で生き残りの国連職員たちが全員死亡した後は、一行の唯一の成人としてメンバーの精神的支柱となり続け、地球への帰還を果たした。

個人的な意見としてエリザベスこそレイズナーという作品において最も重要な存在であり、作品における貢献度も最大のものがあると思っています。

レイズナーという作品は一種の格調高さに包まれていますが、その格調高さはエリザベスに寄るところが大きいと思います。常に冷静沈着であり、時に厳しく、時に優しく生徒達を導き続けるその姿は、大袈裟でなく聖母の様な安心感を視聴者に与えてくれます。

引率した生徒と同僚の大半を目の前で殺され、それでも生き残った生徒を無事地球に連れて帰るという困難極まる立場に置かれながら、一切弱気な所を見せなかった姿勢はアニメキャラでありながら、見習うところが大変多いように感じます。とはいえそんな冷静沈着なエリザベスもかつての恋人クレイトンに再会した時だけは、冷静とはいかず感情的な面を見せてくれますが、そういう点も含めて本当に魅力的な存在だと思います。

レイズナーというロボットアニメを作成する際、子供達だけの逃避行にせず、そこにエリザベスという大人を一人配置させたスタッフの方々の判断は本当に素晴らしいと思います。

個人的にこの作品で一番好きなキャラクターですね。

 

ジョン・クレイトン

アメリカ軍の軍人であり、エリザベスのかつての恋人でもある。月面基地において眼を負傷しながらも生き残った子供たちを指揮してスカルガンナーと戦っていた。

レイズナーという作品で最も面白い場面はどこか?と問われれば、「エリザベスとクレイトンの交流」と即答できます。それくらいこの二人のやりとりは本当に面白い。一見すると未練たらたらで復縁を迫るクレイトンともう終わったことだとドライに拒絶するエリザベスという関係に見えますが、実際そこまで単純な話では無いと思います。

二人の会話から互いの生き方や信念が異なってしまったため破局に繋がったことが分かりますが、そうだとしても今でも互いを思いやる『愛』は続いていることも察せられます。(勿論、エリザベスは医師ですから、患者であるクレイトンに医療者として寄り添っているのもあるのでしょうが、作中でのエリザベスの献身はどう考えてもそれ以上のものがあります。)

こういう人間の持つ精神の機微を描くというのは非常に難しいと思うのですが、それが見事に表現されているところにレイズナーという作品のレベルの高さを感じます。

それにしても結局、エリザベスが決戦から帰還後に少しは一緒に暮らせたんだろうか、グラドス侵攻の混乱の中でそれっきりという気もしますし…?

 

国連職員の生き残り(ビル、ボブ、ニコラエフ、メイ、フランソワ)

国連火星基地の生き残りであり、しばらくエリザベス達と行動を共にするが5話から6話にかけて全員ゴステロとロベリアに殺害された。

この五名は戦闘には関わらず、物語の序盤で退場することもあって語られることもほぼ無いですが、実際には非常に重要なキャラクターであると思います。

なぜなら六話までは米軍火星基地に逃げ込むことが、最大の目標として話が進みますが、そのための計画と実行は、ビルたち国連職員が中心になっているからです。彼らは国連火星基地所属ということからも分かるように宇宙生活のプロフェッショナルであり、優秀なスタッフです。彼らが生存している間はエリザベスですら特に何もしていません。(エリザベスが意見を求められた際、私は医者よ…と意見を遠慮したくらいですから。)

アーサーらCCCのメンバーに至ってはビルたちが地球に連れて帰ってくれる、という完全に受け身の立場でしかありませんでした。そういう意味では第六話までに話を主体的に動かし、行動しているのはビル達であり、実質的な主役という見方もあると思います。実際、ビル達が全員死んでしまったため、エリザベスはリーダーシップを発揮するようになり、CCCのメンバーは自分達の身は自分たちで守るという意識に目覚めています。以下個別に述べます。

ビル⇒リーダー格と思われる男性で彼が中心となって序盤の逃走計画は実行されている。人間的にも優れており、最年少であるアンナにも誠意を持って接していた。最期はロベリアのブレイバー相手に自動小銃一丁で立ち向かうも撲殺された。このシーンは殺したロベリアも殺されたビルも非常に真っ当な人間であることが余計に悲劇性を強調していると思います。

ボブ⇒サングラスをかけた大男。冗談好きなようで作中で何度もジョークを飛ばしている。アンナに対して下ネタ交じりのジョークを言ったことでエリザベスに怒られるシーンもあった。

ニコラエフ⇒金髪の男性。あまり目立たない。名前からソビエト系であると思われる。アメリカ系であろうビルやボブと一緒に働いていることは米ソの冷戦が世界観の基礎にある本作で一種の救いとなっている。

メイ・フランソワ⇒金髪の女性がメイで黒髪の女性がフランソワ。メンバーの中で最も早くエイジを信頼すべきだと意思表示をしており、偏見を持たない知性を感じさせる。エイジの尋問時にフランソワがビルの肩に手を置くという一秒程のシーンがあるが、その行為に多くの意味が込められている優れた表現であるので、機会を別にして述べたいと思います。