蒼き流星SPTレイズナー 第一部の振り返り『グラドス編』

レイズナーの第一部を視聴完了したということで各キャラクターを振り返っていきたいと思います。まずはグラドス関係者から…

 

アーマス・ゲイル

エイジの先輩かつ兄貴分的なキャラクターであり、シナリオにおいて中心的な存在であるのだが、あらゆる点で中途半端かつ矛盾に満ちたキャラクターとしか思えない。

ゲイルというキャラクターはとにかくキャラがブレているのだが、それが顕著に現れている部分に地球人への対応があります。

ゲイルは第一話から第二話にかけて指揮下の部隊と共に火星の国連基地を襲撃し、国連職員とCCCの大多数を虐殺しています。しかし、第十四話でエイジがゲイルに降伏することを決めた際、シャトルの仲間たちの身の安全を保障することを求めるとゲイルはこんなことを言うのです。

 

「心配するな、捕虜は正当に扱う。」

 

いやいやいや…自分が火星で何をやったか忘れたんでしょうか…あの国連基地からは何の反撃もなく、どう考えても非軍事施設であるとわかったはずです。ということは民間人だろうが、非戦闘員であろうが一切容赦なく殺し尽くすという方針をゲイルは貫いていたはずです。実際ゲイルは第二話で生存者がいると報告してきた部下に「殲滅しろ。」と発言しています。ましてや捕虜など捕る素振りも見せませんでした。それを今になって何を言っているんでしょうか、この人は…?正直これ、エイジの歓心を買い、投降させるために「清く正しい将校」を演じようとしているとしか見えません。

ただしゲイルを擁護するならば、ゲイルは第二話から第十四話の間に地球人に対する認識に変化が生じ、せめて民間人くらいは保護するべきだと考え直す様になったのかもしれません。(ズールから捕虜を全員処刑するよう指示された時に「えっ処刑ですって!?」と驚く場面があります。それにしても散々地球人を虐殺しといていまさらそんな命令に驚くなよ…)

ゲイルが地球人に対する人道性を意識するようになったというならそれは良いことでしょう。しかし、ゲイルがそう思っているだけでは意味がありません。彼は軍隊において中尉という大勢の部下を持つ将校であり、その部下にも自分の考えを浸透させなければ単なる独り善がりに過ぎません。しかし、ゲイルには一切そういった姿勢が見られないのも問題です。

彼の直属の部下は少尉であるカルラであり、カルラは「地球人など生かしておく必要が無い。」というグラドス人としては平均的な考えしか持っていません。(というか、それがゲイルの上司であるグレスコやズールの方針なのですが…)

ならばゲイルは直属の部下であるカルラの考えを改めさせ、自分の方針を理解させる必要があります。(何度も言いますが、それをしないのなら単なるゲイルの独り善がりでしかない。)しかし、前述したようにカルラが、地球人など生かしておく必要が無い、という「グラドスの常識」を述べた際、ゲイルは呆れたように

 

「もういい。」

 

と、言うだけで会話を切り上げて立ち去ってしまうのです。これって部下を教育するという将校の義務を完全に放棄してしまっているわけで本当に何やってんの?としか思えません。

それによりその前からゲイルに対する不信と苛立ちを募らせていたカルラは、ついに我慢しきれなくなり、ゲイルに無断で副官のズールに連絡するという越権行為に走らせてしまったのです。カルラはその後、独断でエイジ達を処刑しようとして結果的に逃走させてしまうという大失態を犯すのですが、これもゲイルがカルラを放置し続けたことが原因としか思えません。(そもそもゲイルのカルラに対する態度を観ていると、自分に惚れているのを良いことにカルラを便利な駒として扱っているとしか思えず、その時点でゲイルという男に良い印象が持てない。)

ゲイルが地球人に親近感を持つ過程がもう少し丁寧に描かれていれば不自然さも無かったと思いますが、変化があまりに唐突であることが残念に思います。(そうだとしてもカルラに対する対応の酷さからどっちにせよ好感は持てませんが。)

 

 

ゴステロ

この作品最大のマイナス要素。グラドスの負の面を象徴するキャラクターなのだろうが、作中の所業はもはや単なる人格破綻者としか思えない。まだその人格破綻の裏にグラドスに対する屈折した愛情があるとか、グラドス純血主義が行き過ぎただけ、という面があるのなら語ることもあるが、こいつ場合ただ単に人格が破綻しているだけであり、何もコメントすることが無い。

なぜこんな問題人物を大尉というそれなりの重職に付けているのか、ゴステロ本人というよりグラドスという組織自体の問題としか思えない。とにかく存在自体が荒唐無稽としか言えないキャラクターであり、観ていて白けること甚だしい。

 

 

ジュリア・アスカ

エイジの姉。エンディングでずーーーっと登場していたが、本編には第一部が終盤になるまで姿を見せず、さぞ当時の視聴者は「誰?」と思ったことだろう。

正直なところ最初から最後までシナリオへの必然性が感じられないテコ入れキャラクターという印象が否めない。ジュリアが民間人だったのか、軍人だったのかは最後まではっきりしないが、民間人だったのならいきなりSPTに乗れて、しかもゲイル級の腕前があるというのは明らかにおかしいし、軍人だったというならそんなエース級のパイロットと高性能機を使い捨てにするのもおかしい、というよく分からないキャラクターであった。

あと細かいことだが、ジュリアがグラドスに残ろうとしたから両親も地球行きを諦めたというのもイマイチよく分からない理由だったりする。グラドスに残るジュリアが心配なのは分かるが、エイジを地球に向かわせた時点で「反逆者の家族」扱いは避けられないのだから、エイジの父だけはどうあっても地球に向かうべきなのでは…と思ってしまう。(エイジの父は国連関係者にも知り合いが大勢いるので火星に到着した時点で話が極めてスムーズに進むはずなのだから。)

少年であるエイジを地球に送らなければシナリオにならないというのは分かりますが、そこはもう少し説得力のある理由にして欲しかったなぁ、と思います。

 

 

ジール・カルラ

不 憫

ただただその一言が似合う女性士官。SPTパイロットとしてエイジを軽く翻弄する腕前があり、現場指揮官としても柔軟な作戦でエイジ達を何度も窮地に追いやっており優秀なのは確かだが、周囲に振り回され続けている不憫な女性。

上官のゲイルに職務以上の好意を抱いているのだが、そのゲイルが明らかに作戦に私情を挟んでおり、その曖昧な態度に振り回される姿は気の毒でならない。しかも、カルラはゲイルがグレスコの命令に違反していることを知っているのであり、その違反した命令に従わさせられているという、よく考えるとかなりイヤな立場にある。(もしゲイルが途中で戦死していたら、次級者であるカルラが責任を取らされる可能性があるわけで。)

おまけに部下にはナメられ(カルラ本人は部下を殺された際、すぐさま仇を討とうとするなど部下想いっぽいのに…)、ゲイル戦死後にはいきなり出てきた部外者(ジュリア)に愛する人の乗機を奪われ…と、踏んだり蹴ったりにも程がある。

しかし、カルラというキャラクターが魅力的なのはゲイルに惚れていながら、決して妄信はしていないというところにあります。ゲイルの曖昧な言動に明らかに腹を立てている場面も多いですし(もの凄い棒読みでゲイルに言い返している場面がある。)、ゲイルの発言に納得できない時は猛然と反論しています。周りに振り回されるだけでなく、自己を確立しているからこそ、不憫さが魅力に転化しているとも言えるでしょう。

(余談ではありますが、カルラはいかにも80年代というクセの強い髪型と化粧をしていることに加え、声優さんの声質が非常に可愛らしいこともあって、ヘルメット姿で喋っている時が一番魅力的にに見えたりする。)

 

ガステン

ゴステロの部下その一。

ゴステロの部下を使い捨てにする所業に反旗を翻し、エイジに助太刀するが、返り討ちにされてしまうキャラクター。一話限りの登場ではあるが、エイジと心を通わせる描写があり、グラドス人と地球人も分かりあえる可能性を最初に示したという意味では重要なキャラクターだと思います。

 

ロベリア

ゴステロの部下その二。ガステンとは軍学校の同期で親しい間柄だったようである。

登場時点からゴステロの規則違反を咎めるなど真っ当な軍人であることが分かる。さらに地球人に対する差別意識を持たず、人道性にも配慮できる精神の持ち主であることが察せられる。

例として『明らかに非武装のバギーへの攻撃を躊躇う』『非武装、無防備の相手への攻撃命令に反論する』『やむなく国連職員のビルを殺害した際に苦痛に満ちた表情を浮かべる』『子供であるアンナの存在に衝撃を受ける』…とこんなところでしょうか。

人道性と命令への服従義務の間に挟まれて苦悩する姿は非常に人間的であり、感情移入を誘います。無抵抗の相手や子供なんて殺したくない、しかし軍人である以上は命令には逆らえない…ロベリアが感情を押し殺してビルを殺害するシーンはこのアニメで最も悲劇的な場面であると思います。

そして最終的には上官の横暴に立ち向かうという姿こそ、ガステンと合わせてまさしく『ブレイバー=勇気ある者』に相応しいと思います。(エイジに対しても甘い顔はせず、あくまで犯罪者として逮捕しようとする厳しさも実に良い。)

見た目もハンサムですし、前述したように人間味のある性格をしていることもあり、この作品で最もカッコいい存在だと思います。(もしスパロボの登場することがあれば、ぜひ操作可能キャラにして欲しいですね。)

ただ、ロベリアの唯一残念なのは死に方があまりに不用心だということですね。ゴステロ軍法会議にかけると断言した以上、ゴステロは何としてでもロベリアを殺そうとするでしょう。それなのにゴステロのSPTをそのままにしてエイジの逮捕に向かうのは不自然過ぎますね。

 

 

ズール

グレスコの副官。見た目と名前の感じから嫌味なタイプの人間と思ってしまいそうになるが、確かに部下を叱責しているシーンは多いものの、その叱責の内容自体は別におかしなものではない。ゲイルを叱責しているシーンが多いが、ゲイルの行為は叱責されて当然なので、当たり前のことをしているだけでしょう。

むしろ普段はゲイルやカルラのことを『君』と呼んでいたり、カルラが独断でズールに報告をした際はカルラを気遣っているような感じがしていたりと悪い印象は特にないですね。

グレスコとエイジのグラドス創生に関する話を盗み聞きしてしまったので殺されるが、そのグラドス創生の秘密が、秘密にするようなことか?と思ってしまう内容だったのでちょっと気の毒にすら思える。

 

 

グレスコ

グラドス地球派遣軍の総督であり、言わば敵の親玉である。

侵略軍のトップに相応しい重厚な人間性を感じさせる……のであるが、やっていることを眺めると疑問符が浮かんでしまう。

ゲイルの後任にゴステロの様な人格破綻者を据えた人を見る目の無さもおかしいが、さらにおかしいのはグラドスの技術が地球に流出するという危険性があるのにゲイル戦死後にエイジ達の追跡を打ち切ってしまったことでしょう。

エイジの迎撃任務をスカルガンナーという恐ろしいことは確かだが、性能的にかなり問題のある無人機に任せっきりにして結果的に地球人にレイズナーの調査を許してしまったのはいかがなものか。それでいてエイジがグラドス創生の秘密を知っていると分かると急に焦りだすのだから、やっていることがチグハグに思えてしまう。

支配者としての威厳を感じさせる人物なだけにそういう点が残念。

 

グレスコの女性秘書

常に無表情で職務に励んでいるが、グレスコがオゾン層破壊による地球への大虐殺計画を命じた際には抗議するような表情を向けていた。メイがビルの肩に手を置くシーンもそうですが、こういう言葉を用いないメッセージというのは観ていて非常に印象に残ります。

職務において感情を見せない彼女の表情が初めて変化したということが、これから実行される作戦がいかに非人道的であるかを物語っています。

 

 

どうもグラドスという組織は下級者は魅力的でも上級者はどうかと思う点が多いですね…