『見るな』の向こう側にあるもの 続き

前回の投稿後に思いついたことなのですが、よくよく考えてみると卍丸と絹の関係も『異類婚姻譚』の一種ではないだろうか。卍丸は『人間』の男性であり、絹も一見するとごく普通の人間の少女のようであるが、実際は『鬼と人間』のハーフであり、鬼の力を開放すると絹曰く「醜い鬼の姿」になってしまう。

卍丸と絹の関係に『見るなの禁止』を持ち込むのならば、絹が「この手で誰も傷つけない。」と誓いを立てて自らの両手を縛った『純潔の鎖』こそが、二人の関係における『見るなの禁止』だったのではないでしょうか。

イザナミが黄泉の国まで自分を迎えに来たイザナギに「話が終わるまで中を覗かないように」と忠告し、鶴女房が「私が機織りをするところは覗かないように」と男性主人公(老夫婦)と約束したように絹が純潔の鎖という『見るなの禁止』を設け続けている限り、卍丸が絹との越えがたい相違―――実は人間の感性からすると恐ろしい鬼の姿だった、ということを直視することもなく両者の関係が破綻することはなかった。

しかし、ほとんどの異類婚姻譚がそうであるように卍丸(男性主人公)が絹(女性主人公)の越えがたい相違を直視してしまう。この場合、絹(女性主人公)が第三者(吹雪御前)の卑劣な行為に激怒して自ら『見るなの禁止(純潔の鎖)』を引きちぎるという結末となり、この点だけは通常の異類婚姻譚とやや異なるように感じられます。(大半の異類婚姻譚は男が一方的に見るなの禁止を破る)

そして絹も他の数多い女性主人公と同じく、『見るなの禁止』の向こう側にあった越えがたい相違を卍丸に見られたことで恥の感情に支配され、ついには自殺まで決意するようになる…

 

と、ここまでなら他の異類婚姻譚と同じであります。この後は黙って去っていく絹(女性主人公)を卍丸(男性主人公)が呆然と見送る、という展開になるのが異類婚姻譚でありますが、皆さんご存知の通り、天外魔境Ⅱはそのような展開にはならず、火の勇者たちの団結はより強固なものになります。なぜか?

それは『卍丸が見るなの禁止から逃げなかった』という理由に他なりません。

 

絹はひとりなんかじゃない!

俺たちは仲間なんだ!!

絹の背負っている悲しみや苦しみも

全部まとめて今日から俺が

背負ってやらぁ!!

どんな時にだって一緒に歩いてやる!

だから…ついて来い絹!

俺について来るんだ!!

 

 

私はこの白銀城のシーンを「王道というか少年漫画的な普通にええシーンやねぇ~」程度にしか捉えていなかったのですが、実はこの時の卍丸の言動って異類婚姻譚のお馴染みともいえる『男が責任を取らない・越えがたい相違から逃げる』という展開を真っ向から打ち砕いてみせているんですよね。

父神イザナギは母神イザナミから逃げたことでイザナミを深く傷つけたが、神の子である卍丸は『見るなの禁止』から決して逃げようとせず、絹の苦しみを全て受け止めた。それにより仲間たちの絆はより強固なものとなり、ついには父神たる存在のヨミを打ち砕くのだが、この白銀城の時点で既に卍丸は父神を超えていたのではないだろうか、なんたって彼は男の責任を果たしたのだから…

 

 

 

 

それにしても卍丸君、15歳にしてここまで男として立派とは…

 

 

 

お前男だ!(高田延彦風に)

 

 

 

 

 

 

しかし、イザナギイザナミに対して素直に『約束破ってごめんね!』と謝れていれば現代日本人の精神性もちょっとだけ違ったものになっていたのでは…と割と本気で思う今日この頃です。

 

 

 

 

参考・引用ウェブサイト

 

 

歴戦の記録 http://www.reilou.sakura.ne.jp/tengai/index.shtml