『ヨミとマリ』は『イザナギとイザナミ』か?

天外魔境Ⅱ卍MARUというテレビゲームは創造神(岸田今日子)によってヨミとマリが生み出され、創造神より使命を与えられた二人が宇宙を放浪した果てに「生命に満ち溢れた青い星」に降り立つシーンから物語が幕を開けます。

天外魔境Ⅱにおけるヨミとマリの関係は当初は二人で協力して世界を創ろうとしながらも結果的に敵対する関係に分かれてしまったことから、日本神話において国と神を産み、最終的には仲違いしてしまったイザナギ(男神)とイザナミ(女神)の関係を連想します。しかし、古事記においてイザナギイザナミは『国産み』に次いで『神産み』を行いますが、数多くの神々を産み出した果てにイザナミ(女神)は『火』の神であるカグツチを産んだ際に女陰(女性器)に致命的な火傷を負い、それが元でイザナミは死んでしまいます。このイザナミ(女神)が『火』を産むという流れは『火の一族』を産み出した『女神=マリ』との関連性が感じられます。(もっともヨミが男神でマリが女神であるという根拠は特に無く、ヨミの姿や担当された声優さんから受けた印象でしかありませんが…ここではヨミが男神でマリが女神ということにさせてください。なによりマリが最後に自分のことを「母親らしいことをさせておくれ」と発言していることですし。)

また、イザナミ(女神)が産み、そしてイザナミの死の原因となった『火』の神・カグツチのことをイザナギ(男神)は恨み、イザナギカグツチを切り殺すという結末は、マリ(女神)の産んだ『火の一族』をヨミ(男神)が亡き者にしようとし、戦いを繰り広げるという天外魔境Ⅱの基本的な世界観と共通するものがあります。

これだけであれば単純にイザナギ(男神)=ヨミ。イザナミ(女神)=マリ。という関連性を感じますが、古事記ではイザナミの死後、以下のように話が展開します。

 

イザナギ(女神)は死後、黄泉(ヨミ)の国へと旅立つ。イザナミにもう一度会いたいと思ったイザナギイザナミを追って黄泉の国へと向かう。イザナミイザナギの求めに応じ、黄泉の国の神に元の世界に帰還する許可を得ようとする。しかし、その際にイザナミは決して私の姿を見ないようにとイザナギに約束させるが、あまりに待ち時間が長いこともあり、誘惑に負けたイザナギは禁じられたイザナミの姿を覗いてしまう。(これは『見るなの禁止』という神話や昔話の重要な要素でもある)

実はイザナミはウジの湧く醜い姿に変貌しており、その姿を見られたイザナミは激怒し、両者の関係は破綻してしまう。そしてイザナミはそのまま黄泉の国に身を留め、黄泉津大神として黄泉の国を主催していくこととなった。

(余談ではあるが、古事記には根堅洲国〈根の国〉という国も登場する。この根の国が黄泉の国と同じものなのかどうかは解釈が分かれるようである。ちなみに根の国も黄泉の国もその入口のことを黄泉比良坂と呼び、天外魔境Ⅱに登場する黄泉平とはこのことであろう。)

 

 

上記を読んでいただければわかると思いますが、古事記において黄泉の国(根の国)に鎮座し、そこで神となったのは女神のイザナミです。しかし、天外魔境Ⅱにおいて黄泉の国(根の国)に降り立ち根の国に鎮座したのは男神であるヨミです。

この古事記におけるイザナギイザナミの関係を天外魔境Ⅱのヨミとマリの関係に当てはめるのならば、マリ=イザナミ(女神)が根の国を統治していることになりますし、また『火』を産み出したのもマリ(女神)です。

イザナミ『火』の神・カグツチを産んで女陰に致命的な火傷を負いつつも死すまでに自らの吐瀉物や排泄物からすらも神を産み出し続けています。

無論人間と同じく男(神)がいなければ女(神)も子供を産み出すことは出来ません。しかし、「父親が子供を産んだ」とはあまり言わないように出産を主体的に行うのは女性といえるのではないでしょうか。(射精しただけで死んだ男はまずいないと思われるが、子供を産んで死んだ女は太古から現代に至るまで一貫して存在している。そういう意味でも女の方がリスクを冒して主体的に出産に臨んでいると言えるのではないだろうか)

となると『火』『根』という天外魔境Ⅱの基本世界観を主体的に産み出し、管理していったのは古事記の解釈に沿えばどちらも『マリ(女神)』ということになります。ヨミはそんなマリを追いかけ、追い求め、そして結果的に傷つけてしまう存在のようです。(なにせヨミはマリを食べて自分の中に取り込んでいるのだ)

 

 

ここまで長々と書いておいて何が言いたいのかというと特に何も言いたいことはないのですが……この度、初めて古事記を読んでみて「えっ!?女神の方が根の国を治めてたの!?天外Ⅱと逆じゃん!しかも火を産んだのも女神の方なのか…」というちょっとした驚きがあり、ということは天外魔境Ⅱの世界観は単純に神話におけるイザナギイザナミの関係をなぞっているのではなく、アレンジが加えられているのではないかという発見(こじつけ)があったのでこうして文章にしてみました。

(ちなみにシナリオを担当された桝田省治さん曰く天外魔境Ⅱの元ネタは古事記だそうです。)

 

 

結局自分でも何が言いたかったのかよくわかりませんが、一つだけ言えるのは古事記はとても面白い書物だということ。古事記は間違いなく日本と日本人の原型であり、読めばちょっとだけ毎日が楽しくなりますよ。きっと

 

 

 

 

参考文献

 

『コンプコレクションスペシャル 天外魔境Ⅱ卍MARU公式ガイドブック』 PCエンジン編集部 株式会社角川書店 1992年

 

古事記日本書紀 二冊読んだらわかった日本のルーツ マンガでわかる日本創生の物語・全33話収録』 枻出版社

 

古事記03現代語訳』 青空文庫 底本『古事記』角川文庫、角川書店 1956年